PCR(Polymerase Chain Reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)
PCRはクローニングしていないDNA断片の一部の塩基配列情報にもとづいて,そのDNA領域を増幅する革新的技術である.この技術は耐熱酵素であるTaqポリメラーゼの発見によるところが大きいが,この方法の基礎的な部分はPCR開発より以前に個別に解決されいた.それらを統合してPCR法として開発したのが,アメリカ,カリフォルニア州に本社をおくCetus社にいたMullisである.
いまでは合成DNAが簡単に入手でき,20塩基程度の1本鎖の合成も注文から3日以内に宅配便で配達されるようになっている.値段としては2000円程度.これを合成オリゴヌクレオタイドいって,20塩基の配列を20merというが,このDNAに対応する塩基配列がゲノム中で現れる確率は,4つの塩基の20通りの配列によるから4の20乗となる.3000Mb(Mbは1000000塩基で,3000Mbとは30億塩基をさす)のヒトDNA中には1回から2回しか出現しない確率となる.近接する領域の20塩基の情報とあわせるとたった1カ所のゲノムDNAを挟み込む形となる.この部分をDNAポリメラーゼの1種であり,耐熱酵素でもあるTaqポリメラーゼによる増幅を行うことが一般的利用法である.必要な反応液としては,酵素の活性に必要なMgCl2をバッファーに加えること,さらに,適当な塩条件になるように調整したバッファーをいれて,核酸合成に必要なデオキシリボ核酸3燐酸(A,C,G,Tの塩基に3つの燐酸がついている状態でDNA合成にこの燐酸のエネルギーが用いられる)を溶液の中にいれる.用意ができたらプライマーと呼ばれる2種類の目的DNA領域を挟み込む20merの1本鎖DNAとわずかなゲノムDNAそのものをいれる.この反応液をまず,
94度 3分
一般的にはこの温度で鋳型となるゲノムDNAの2次構造をとく
次に30サイクル以下の2本鎖DNA解離−プライマーのアニーリング−DNA鎖の伸長反応を行う
94度 1分
60度 1分
72度 2分
最後にすべてのDNAの伸長反応を終わらせるために
72度 5分
以上で2kb程度の長さのDNAが増幅できる.これらの反応時間などは使用する酵素の種類によって,増幅する領域によって変更される.特に重要な点は3時間程度でプライマーの内部の塩基配列がわからなくても実験に用いることのできる大量のDNAが入手できることにある.そのため,遺跡から発掘された植物遺物からのDNAを増幅して,塩基配列を決定することで過去の状態を知ることが可能になったことをあげるだけでその効果がわかるであろう.
塩基配列決定
学生実験で塩基配列決定を行うにはSanger-Coulson法を用いる.この方法の特徴はジデオキシヌクレオチド(ddNTP:dATP-ddTNP)を利用する点にある.ddNTPでは,3’Cに付加しているのがOH基でなく,H基である.したがって,それ以上のDNA鎖の伸長反応が起こらない.このddNTPを一定量でdNTP(通常のDNA鎖伸長に用いられるデオキシヌクレオタイド)に混ぜることで様々な長さでDNA鎖の伸長をとめる.これを同一の目的DNAに対して4種の反応系にわけて,それぞれをポリアクリルアミドゲルで泳動する.それぞれの反応系,例えばAについての反応系では,Aが出現するごとに鎖伸長がとまる.それぞれの断片を比較することで,何塩基離れてAが出現するかがわかることになる.詳細は絵とき遺伝子クローニング入門(基礎遺伝学の参考資料)を参照のこと.この反応もいまではPCRの反応でおこなうことが可能であるため,12種類のDNA試料の調整1時間,PCR反応(機械でおこなう)3時間,ゲルの作成1時間,泳動10時間,解析1時間程度で全行程を行うことができる.