三内丸山遺跡と育種遺伝学

−DNA考古学の応用−


更新2001.12.27

Link:(食べられる植物9月の三内丸山遺跡プロジェクト収穫野生ツルマメDNA考古学佐藤洋一郎研究室へ)

*DNA考古学とは:これまでの考古学では生物の遺物などの情報をその形態から判断して種の同定を行ってきました.遺物としては,

参考図書:佐藤洋一郎「DNA考古学」「DNA考古学のすすめ」

1)プラントオパール(単子葉植物の機動細胞;moter cell,葉の水分調整を司る細胞で葉脈の谷間にある.この細胞にケイソが蓄積することから細胞の形が鋳型として取られる.)

2)花粉(花粉の細胞壁はかなり堅い物質であり,土の中にみつかることからその地層の露出していた時期の植物層とその密度が把握できる)

3)炭化種子(種子のでんぷんが炭化したもの)


これは炭化したマメ科種子植物の種子


などがある.ただし,形の似ているもの,破片などは分類が困難である.したがって,栽培植物としての断定は困難である.ただし,炭化種子ではイネの場合,佐藤助教授が行ったように,のげの有無,のげの鋸歯の有無,種子の離層に枝梗が付着しているかなどの形状で栽培と野生種の識別が可能である.一方,カラスムギ(上方)は離層が形成され脱粒するために種子が落下して,次世代にまわる.このようにして動物に食べられないように熟するそばから脱粒して地面に埋まることで絶滅しない工夫をしている.栽培種は栽培者がこの作業をするのとより多く収穫できるように脱粒しないものが見つけられ選抜されてきた(下記写真参照).

イネの種子(玄米)とカラスムギの種子.かなり大きいので食べられそう.

下が稲の籾で離層が形成されないため収穫時に枝梗が付着したまま穂から”引き剥がされる”

カラスムギの籾の一部.マークしてあるところが前後の種子を連結している部分で,それぞれが離層を形成している.

(続き)

これらの遺物の内,3)炭化種子ではDNAがわずかに残っていることがある.このDNAをPCR法(微量のDNAを増やす方法)により増幅して塩基配列などを決定することで形態によらない物質的同定が可能になった.ただし,DNAが万能であるわけではなく,DNAが識別するのに役立つ場合のみ有効である.種の同定には役立つことは多いが,その種が栽培されていたかということになると農耕遺構がみつからないと難しいこともある.ただ,栽培されていた種と野生種の間に明瞭な違いがあれば識別でき,また現生のどの地域のものと同じであるかについても判別できる可能性もある.さらに,どの部分のDNAでも増やせるということではない.PCR自身の増幅限界やその理論的な限界もある.

1)PCRで増幅する領域の一部だけでも塩基配列が既知でなければならない.これはプライマーで挟まれる部分のみを増幅できるPCR法の原理による

2)PCRは通常2kb(塩基が2000ヶ)分程度を増やすことができる(例外的に40kb増幅することもできる)が,遺物ではDNAが崩壊している場合もあり,わずかな長さのものしか存在していない.

3)炭化種子の状態にもよるが,細胞の中のコピー数の多いものは崩壊を免れているものもあり,その意味で色素体DNA(葉緑体にあるDNA,細胞中にかなりのコピー数がある),ミトコンドリアDNA(動物にもある)が標的となりうる.アラビドプシスのゲノム解析の結果からは以下のようなコピー数の違いがわかっている.

色素体 ミトコンドリア
サイズ 125Mb 154kb 367kb
コピー数 2 560 36
遺伝子重複率 60% 17% 10%
遺伝子密度 4.5kbに1つ 1.2kbに1つ 6.25kbに1つ
イントロン含有率 79% 18.4% 12%
トランスポゾン含有率 14% 0% 4%

色素体が560コピーと核に比較してざっと28倍ものコピー数で存在していることがわかる.このように確率的には色素体の方が成功しやすいのです.これらの方法でDNAを利用して考古遺跡におけるその時代の生物層を明らかにすることがDNA考古学といえるでしょう.詳細はDNA考古学会を立ち上げたという佐藤洋一郎”DNA考古学”へ.

周辺植物クワ木いちごミズキ

それぞれ,とてもおいしそうな実をつけています.これらのDNAと過去の種子のDNAを比較することで,どのような植物相が過去にみられるのか,またそれらは栽培種と同じなのか違うのかなどの情報が得られることもあると思います.というのは,これらのうち栽培されているのはクワだけですが,栽培されているもの,野生種と比較できる時のみにそれらの情報が得られるからです.ただ,少なくともニワトコの種子といわれる炭化種子がエゾニワトコといわれるものなのか,現在の青森県に多く見られるニワトコなのかを比較すること,クワの実が1つの個体から多くあつめられたものか,雑多な集団から広く採取されてきたものなのかも比較,調査することは可能でしょう.その場合は細胞質の遺伝情報だけでなく,核に由来するDNAが残存している時に可能です.これらの可能性を調査することで新たに見えてくる縄文の世界の食生活はどんなものなのでしょう.


これは現生植物から採取したニワトコの種子,左が大型のエゾニワトコ,右がニワトコ.これらの現生植物との比較が重要となる.周辺では60年に一度といわれるササの実が付いているところもあり,これらの現生植物と遺跡から出土した炭化種子との比較同定が行われることで,過去にどのような植物の利用があったかについての詳細な情報が手にはいることでしょう.食用可能な種子が存在しており,その出土の状況が栽培されていたことを裏付けるものであれば,縄文農耕のあり方を知る上で貴重なデータとなることでしょう.特に,注目に値する事実はムギの随伴植物として知られ,それ自身が栽培植物(エンバク,別名;オーツoats)の野生種でもあるカラスムギと推定される炭化種子があることから,DNAレベルので種の同定を行うことで,類似した種子との比較を行って種同定を確実なものにできるはずです.


カラスムギと推定される大型炭化種子


では,カラスムギとはどのような植物なのでしょう?弘前大学構内のカラスムギの種子,ならびに草姿を御紹介します.写真できしだい下記に.

*これから行う研究について:

題名:DNA考古学による三内丸山縄文農耕の検証(2001.09.29更新 New)


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