コロナウイルスについて

森田英嗣*1、杉山一夫*2


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コロナウイルスは1本鎖のRNAゲノムを持つエンベロープウイルスであり、ヒトを含み様々な動物に感染し、おもに呼吸器系、肝臓、小腸、中枢神経系、の疾患の原因となる。

 コロナウイルスの形状は、直径60〜220nmの楕円形あるいは、多形成の粒子であり、3〜4種類の蛋白質で構成されている。 ゲノムRNA と結合しRNPを形成し、分子量が40kDa〜50kDaの塩基性蛋白であるNucleocapsid proteinと、分子量23〜30kDaの糖蛋白質であり細胞膜由来のウイルスエンベロープに存在しているMatrix proteinと、ウイルス粒子上のクラブ様突起(Spike)を形成する分子量150〜200kDaの糖蛋白質であるSpike proteinが主に知られている。

 DVIM(diarrhea virus of infant mice)は佐藤らにより、乳仔マウスにおける下痢症の起因となるコロナウイルスとして単離され、インフルエンザウイルスに似た赤血球凝集活性(HA活性)及び、レセプター破壊活性(RDE活性)を持つ特徴が杉山らにより発見された。後の研究により、このRDE活性はインフルエンザC型ウイルスと同様なアセチルエステラーゼ活性(AE活性)であることが確認され、さらにこのHA及びAE活性は、第4の構造蛋白質であるgp69に存在し、電子顕微鏡観察よりこのgp69はウイルス表面のスパイク蛋白質の基部に存在することが示された。

 コロナウイルスは血清型により分類すると、4つのグループに分けられる。このなかでもHE蛋白質はグループ2の中の数種類の株のみに存在することが確認されている。  コロナウイルスの中でマウスを感染宿主とするウイルス群をマウス肝炎ウイルス(Mouse Hepatitis Virus:MHV)と呼ぶ。MHVの中でも各ウイルス株間において組織親和性及び、病原性は異なり、現在最も研究が進んでいる株として、成体マウスにおいて肝炎を引き起こすA59株。肝炎に加え脱ミエリン症をも引き起こすJHM株等がある。又、乳仔マウスにおいて、胃腸炎を引き起こすウイルス株としてRI株、S型株等がある。

 DVIMはウエスタンブロッティングなどの抗血清を用いた交叉実験によりMHV-S型と近縁性を示すと報告されている。

 MHVのゲノムRNAはおよそ32kbであり、現在同定されているRNAウイルスの中でも最大の長さを持つため、このウイルスはきわめて特徴的なゲノム複製機構を有する。コロナウイルスのゲノムRNAはプラス鎖RNAでmRNAとして機能する。ウイルスが細胞に侵入すると、先ずゲノムRNAの5’末端領域にコードされているRNAポリメラーゼが翻訳される。そして、7本〜8本の長さの異なったウイルス特異的なmRNAが合成され、それぞれのmRNAは3’末端のゲノムRNAと同じで、3’末端から5’末端の方向へ異なる長さで伸び、5’末端にはゲノムRNAと同じ70bpからなるリーダー配列をもつ構造をしており、これを3'-coterminal nested setと呼んでいる。

 コロナウイルスの複製機構のモデルとして現在考えられているのは、Laiらのグループにより提唱されたleader primed discontinuos transcription model である。これは、リーダーRNAが、それぞれのintergenic regionに存在するconcensus sequenceを認識しRNAを複製する上でのプライマーの役割を果たすという説である。そしてこの説では、著しく異なるそれぞれのmRNAの量比は leader sequenceとconsensus sequenceのホモロジーに依存するとされている。

 HE 蛋白質はmRNA 2bにコードされており、このmRNAはMHVの中でもJHM、S、DVIMでしか確認されていない。A59株や、2型、3型株においてmRNA2bが存在しないのは、leader sequence とintergenic regionとの関係によるものであると考えられている。

 MHVの最も重要な生物活性として挙げられる細胞融合活性及び、感染細胞の表面に存在するMHVの感染レセプターへの認識は、現在のところS蛋白質に存在するという報告が大半を占めている。しかし、インフルエンザC型ウイルスやウシコロナウイルスでは抗HE蛋白質感染中和単クローン抗体が報告されており、未だに機能が不明なMHVにおけるHE蛋白質がこれらの役割に関与している可能性は大きく、現在HE蛋白質に関してより詳細な研究が必要とされている。

 DVIM株はMHVのなかでも他のHE蛋白質を有するJHM株やS型株よりも高いHA及びAEの両活性をもちウイルスの増殖におけるこれらの活性を検討するうえで非常に興味深い株といえる。



*1 eiji morita:

平成10年 弘前大学理学研究科生物学専攻修了、

現 東北大学医学研究科(博士課程)

*2 kazuo sugiyama

弘前大学 農学生命科学部応用生命工学科 細胞工学講座 教授


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