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突然変異

生きた細胞において, DNA は,とくに 複製 されている時 ( 真核生物の 細胞周期 の S 期 ) に 化学的変化を起こすことがある。これらの変化のほとんどはすぐに修復されるが,修復されないものが突然変異となる。すなわち,突然変異は DNA 修復が失敗に終わった場合に起こる。

DNA の修復についてはこちら

単一塩基置換 single-base substitution

1つの塩基が,たとえば A が他のものに置き換わった場合である。このような単一塩基置換はv点突然変異vとも呼ばれている。( 1 個の プリン purine [ A または G ] あるいは ピリミジン pyrimidine [ C または T ] が他のものと置き換わったのであれば,この置換は 転移 transition と呼ばれる。プリンがピリミジンによって置き換わった場合には,あるいはこの逆の場合も トランスバージョン transversion と呼ばれる。)

ミスセンス変異

置き換わった塩基が本来の コドン を変えてしまうため,合成されるタンパク質のアミノ酸が変わってしまう変異である。

例: 鎌状赤血球貧血 ヘモグロビン のβ鎖の遺伝子の 17 番目のヌクレオチドの A が T に置き換わったために,コドン が GAG ( グルタミン酸 glutamic acid のコドン ) から GTG ( バリン valine のコドン ) に変わった。 ヘモグロビン・β鎖の 6 番目のアミノ酸がグルタミン酸ではなくバリンに置換した例である。

別の例: 嚢胞性線維症 cystic fibrosis をもつ患者 A ( 右図の Patient A を参照 )。

ナンセンス変異

置き換わった塩基のために,特定のアミノ酸を指定するはずが,ストップ・コドンのうちの 1 つ( TAA, TAG, または TGA )に置換した変異である。 そのため,突然変異遺伝子から 転写 されたメッセンジャー RNA の 翻訳 が完了しないままに終了してしまう。この変異が起こるのが遺伝子内で早ければ早いほど,合成されるタンパク質は不完全なもので,機能を持たないものとなってしまう。

例:右図の Patient B を参照。

嚢胞性線維症 cystic fibrosis の患者では,これまで 200 種類以上の突然変異の例が見出されている。

これらの突然変異のそれぞれは,cystic fibrosis transmembrane conductance regulator ( CFTR ) と呼ばれるタンパク質( 1480 個のアミノ酸からなる )をコード化する巨大遺伝子内で起こる。

このタンパク質は細胞から塩化物を輸送するのに働く。この遺伝子は第 7 染色体上に 27 個のエクソンに分かれながら広がっている 6,000 個を超えるヌクレオチドをもつ。

図の「 突然変異 」の欄に示した数字は変化したヌクレオチドの番号を表わす。タンパク質の欠陥のために,様々な症状が現れる。鎌状赤血球貧血の例とは異なり,嚢胞性線維症の場合には複数の突然変異遺伝子を受け継いでいることが多い。

嚢胞性線維症のある患者の例では ( 右図の Patient B ) ,1,609 番目のヌクレオチド C が T に置き換わったために,グルタミンのコドン ( CAG ) がストップ・コドン ( TAG ) に変化してしまった例である。この患者によって産生されるタンパク質は正常な 1,480 個のアミノ酸鎖のうちの最初の 493 個しかないため,正常に機能することはない。

サイレント変異

ほとんどのアミノ酸はいくつかの異なる コドン によってコード化されている。たとえば,セリン serine のコドン TCT の 3 番目が他の 3 種類の塩基の 1 つに変わっても,まだセリンをコード化している。このような突然変異を,遺伝子産物に変化がなく,遺伝子 ( またはその mRNA ) を調べないと検出できないので,サイレント変異といっている。

スプライス部位変異

pre-mRNA が処理されて mRNA が形成される時には,イントロン 配列の除去は極めて正確に行われなければならない。

スプライス ( 連結 ) 部位でのヌクレオチドの信号は酵素作用を誘導する。突然変異でこれらの信号の 1 つが変わると,イントロンが除去されずに最終段階の RNA 分子の一部として残ってしまうことがある。

その配列を翻訳しても,産生されるべきタンパク質の配列とは異なったものとなっている。

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挿入欠失

余分な塩基対が追加されるか ( 挿入 insertion ),遺伝子の DNA から塩基が除去される ( 欠失 deletions ) 場合である。この場合の塩基の数は 1 個から数千個に及ぶ。

1 つまたは 2 つの塩基対( またはこれらの繰り返し )の挿入や欠失によって,遺伝子の翻訳が フレームシフト ( 情報単位が変化 ) してしまうため,破壊的な影響を及ぼす。 右図には,読み込む情報単位が右へヌクレオチド 1 個変化したために,同じヌクレオチドの配列でありながら異なるアミノ酸配列をコード化する例を示している。

mRNA は 3 個ずつのヌクレオチドの新しい組み合わせで翻訳されるが,これらの新しいコドンによって指定されたタンパク質は役に立つことはない。上図の他の 2 つの例 ( Patients C と D ) を参照のこと。

フレームシフトによって新たな ストップ・コドン が形成されることがあり,ナンセンス変異 となることがある。タンパク質と同じで,まったく役に立たないものとなってしまう。

3 個のヌクレオチドまたはその繰り返しによる挿入と欠失では,情報の単位が保存されているためにそれほど重大な影響を及ぼさないことがある( 上図の Patient E 参照 )。

しかし,同一のトリプレットの繰り返しが挿入されることで,多くのヒト遺伝病が起こっている。 ハンチントン病 Huntington's disease と 脆弱 X 染色体症 fragile X syndrome はこの 3 塩基反復 によって起こる病気の例である。

脆弱 X 染色体症

ヒトにおけるいくつかの遺伝病では,同一のコドンが幾度も繰り返され挿入されることによって起こることが知られている。ヒトの X 染色体上には,トリプレット CGG が反復された ( CGGCGGCGGCGG, など ) 部位がある。

CGG の反復回数は 5 回程度から 50 回までは有害な表現型は発現しない( これらの反復ヌクレオチドは遺伝子の非コード領域にある )。100 回程度の反復でも有害なことはないが,これらの反復は世代毎に( 4000 反復程まで )長くなる傾向をもっている。

反復回数が多くなると X 染色体は非常に脆弱になり,緊縮するようになる。そのような染色体を受け継いだ男性は( もちろん母親から )精神遅延などを含む多くの有害な表現型を示す。脆弱 X 染色体を受け継いだ女性は( ほとんどは母親から,この症候群をもつ男性は父親となることが滅多にないため )比較的軽微な症状を示す。

右図はある家族における脆弱 X 染色体症の受け継がれるパターンを示したものである。ヌクレオチド CGG の反復回数を下に示した。この遺伝子は X 染色体上にある。したがって,女性 ( 円形で示してある ) は 2 コピーをもち ( それぞれの数字が示されている ) ,男性 ( 四角で示してある ) は 1 コピーだけである。80 - 90 反復をもつ遺伝子をもつ人は正常であるが( 薄い赤色 ),この遺伝子は不安定で,反復回数が子孫に伝わると数百に増加してしまう。そのような増大した遺伝子を受け継いだ男性 ( 赤い四角 ) は脆弱 X 染色体症を発現する。

ハンチントン病 Huntington's Disease

反復ヌクレオチドが CAG であり, huntingtin とよばれるコード化されたタンパク質にグルタミン( Gln )鎖が加わっている。この異常タンパク質は脳の一部における シナプス伝達 を妨害し,これら脳細胞の アポトーシス apoptosis を引き起こす。

重複 duplication

重複はゲノムの一部が文字重複したために起こる。減数分裂 meiosis 時に,一直線に整列していない姉妹染色体間で乗り換えが起こり,重複遺伝子をもった姉妹染色体ができてしまい,もう一方では欠失が見られる ( 図では省略 ) 。下に示した例では,釣り合いのとれない乗り換えが起こったため,ステロイドの 1 種である アルドステロン aldosterone の合成に必要な遺伝子が 2 コピーできている。

しかし,この新たにできた遺伝子は不適当なプロモーター promoter を 5' 末端にもつために ( 11-beta hydroxylase 遺伝子から受けとった ) ,通常の遺伝子よりも発現が強くなってしまう。突然変異遺伝子は優性であり,この家族のすべての構成員 ( 4 世代間を通して ) が,高血圧を生じるこの重複をもつ染色体を少なくとも 1 本受け継いでいる。そのため,脳卒中で早死にする傾向が現れている。

遺伝子の重複は真核生物の進化の過程で繰り返し起こった。ゲノム解析によって, 1 つの生物が同じような塩基配列をもつ遺伝子が多数認められている。おそらくこれらの遺伝子は先祖代々の遺伝子が重複を繰り返してきたことに由来すると思われる【 これらをパラログ遺伝子 paralogous gene という 】。

転座 translocation

転座は,ある染色体の一部 が非相同染色体 へ転移することを意味する。転座はしばしば相互に起こり, 2 本の非相同染色体間で交換が起こる。

転座によって表現型が変化することがある:

突然変異の頻度

突然変異はまれに発生する。

ヒトは両親から 3 x 109 塩基対の DNA を受け継ぐ。 単一塩基置換 single-base substitution を考えてみると,各細胞は 60 億 ( 6 x 109 ) の異なる塩基対が塩基置換の標的となり得る。

単一塩基置換は DNA が複製される時に最も起こり易い。真核生物では 細胞周期の S 期 である。

100% の精度で進行することはまずない。細胞にはそのコピーの精度を確認する仕組みをもつが,それでもエラーが残ることがある。

ヒトや他の哺乳動物では,修正されないエラー ( すなわち,突然変異 ) が 5 千万 ( 5 x 107 ) 個のヌクレオチドを引き渡すうちに約 1 回の割合で起こる。しかし,ヒトの細胞には 6 x 109 塩基対があるので,これからいくとそれぞれの新しい細胞には 120 個程度の突然変異が含まれていることになる。

これは困ったことに?!

あまり深刻にならなくてもいいようである。我々の DNA のほとんど ( 97% 程度 ) は何もコード化していない。これらには以下が含まれる: 表現型に影響を与える突然変異の頻度はどうして測定できるだろうか? ヒトの場合では容易ではない。

いくつかの症例

配偶子における遺伝子座に起こる突然変異の頻度として表わす。

遺伝子座によってかなりの変動があるが,平均である遺伝子座において起こる有害な突然変異の頻度は約 1 x 10-5,すなわち約 10 万この配偶子に1個の割合で起こることになる。子供になるためには 2 個の配偶子が必要であるので,ヒトのゲノムを 40,000 遺伝子とすると, 2 倍体の接合子は 80,000 遺伝子をもつことになる。(注) したがって,新生児は少なくとも新たに生じた 1 個の突然変異を潜ませていることになる ( 別の推定方法でいくと 3 個にもなる )。

- ゲノムプロジェクトが完了に近づいている現在,Cold Spring Harbor 研究所では "Genesweep" - ヒトの遺伝子が何個あるかを推定する競技会を実施している。現在の推定値は,27,462 個から 150,000 個以上 ( 半数体の遺伝子数)の範囲にある。あなたも参加してみませんか

リンクはこちら
http://www.ensembl.org/Genesweep/

男性は女性に比べ突然変異の原因になることが多い

ほとんどの突然変異が細胞分裂の S 期に起こるとすると,男性はより危険な状態にある。すなわち, したがって, 男性に偏っている傾向はそれほど心配することもない。考えられる理由は以下の通りである:

体細胞 vs. 生殖細胞の突然変異

同じ突然変異でも,生殖細胞か体細胞で起こるかによって大きく影響が異なる。骨髄や肝臓などの 体細胞 somatic cell で起こる突然変異によって,

その影響がどうであれ, 体細胞突然変異 によって最終的にその細胞,あるいは宿主が死亡した時に消滅する運命にある。

これに対して,生殖細胞突然変異 では突然変異した生殖細胞から生じた接合子の後継細胞のすべてに影響が及ぶことになる。 幸い成人に達したとしても,その細胞のすべてが突然変異を含んでいることになる。配偶子も同様である。したがって,親となって子供を得た時には,これらの突残変異が次の世代に受け継がれることになる。

例 1 :

今日,南アフリカに住む 8,000 人以上が ポルフィリン症 porphyria と呼ばれる代謝病の遺伝子をもつ。 それぞれの人は 1 つのカップル, Ariaantje Jacobs と Gerrit Jansz にまで戻る祖先を通してこれらの遺伝子を受け継いでいる。このカップルは 17 世紀後半にオランダから南アフリカへ移住した。 2 人のどちらかが生殖系列を介して彼らの子孫にこの遺伝子を広めてしまったのである。幸い,バルビツール酸系の催眠薬を投与されなければ ( この薬剤は激しい反応を引き起こす ) 症状はたいてい軽微である。

例 2 :

ヒトに起こる網膜芽細胞腫 Retinoblastomaは,
体細胞と生殖細胞についてはこちら
その他の関連情報はこちら:
化学的突然変異誘発要因についてはこちら
マウスにおける突然変異についてはこちら
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April 1, 2010