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性染色体 Sex Chromosome


ヒトの細胞核は 22 本の 常染色体 autosomes と 2 本の 性染色体 を含む。

女性では,性染色体は 2 本の X 染色体 であり,男性では 1 本の X 染色体と 1 本の Y 染色体 である。

Y 染色体の存在が,男の子になるよう発生の仕組みが働く決め手になる。

Y 染色体

減数分裂 meiosis によって精子が形成される際に,他の相同染色体と同じように X 染色体と Y 染色体も分離することになるが,この過程は問題なく起こる。

その理由は,X 染色体と Y 染色体には相同な部分が一部あり,その部分で対合が起こるためである。

右の写真は,第 1 減数分裂前期のマウスの X 染色体と Y 染色体の対合を示す。対合している部分の 2 ヵ所で 交叉 が起こる。この部分は 偽常染色体部位 pseudoautosomal region と呼ばれ,染色体の両端に位置する。

偽常染色体部位

この部分にある遺伝子は ( これまで 9 個見出されている ) 通常の常染色体遺伝子のように遺伝するので,pseudoautosomal region と呼ばれている。

男性はこれらの遺伝子を 2 コピー,すなわち Y 染色体の偽常染色体部位の 1 個と,X 染色体の相同する 1 個とをもつ。

したがって,男性は父親の X 染色体に元々あった対立遺伝子を受け継ぎ,女性は父親がもっていた Y 染色体に元々あった遺伝子を受け継いでいるのである。

模式図はヒトの Y 染色体を示す。

偽常染色体部位以外の遺伝子

Y 染色体の 95% は偽常染色体部位間にあるが,ほんの十数個の遺伝子が認められているだけである。

これらのあるものはすべての細胞によって ( ならびに両性で ) 利用されるタンパク質をコード化している。

残りの遺伝子は精巣でのみ機能すると考えられるタンパク質をコードしている。この中で中心的な機能を果たしているのが SRY 遺伝子である。

SRY 遺伝子

SRY ( sex-determining region Y ) は短腕 ( p 腕 ) に位置する遺伝子である。この遺伝子は,胚を雄性化する経路を開始させる主幹スイッチである。この遺伝子がなければ,女性 ( 雌 ) となる。したがって,女性 ( 雌 ) 化が 初期設定 されているようである。

その証拠について,

( アトランタオリンピックでは,女性競技者が遺伝子をもっていないかを確認するために, SRY を分子プローブとした検査が行われた。)

X 染色体

X 染色体上には数百の遺伝子があるが,性の発現に直接関わる遺伝子は極めて少ない。しかし,X 染色体の遺伝子は,以下の理由のために特別な様式で遺伝する。 この様式で遺伝する遺伝子は伴性遺伝,あるいは X 連鎖遺伝という。

X 連鎖遺伝: 例

A 型血友病 血液凝固第 VIII 因子をコードする遺伝子の突然変異で起こる遺伝病である。

この遺伝子は X 染色体上にある ( 図では赤で示してある ) 。 1 本の X 染色体しかもたない男性 ( 常に母親から受け継ぐ ) では,第 VIII 因子を合成できず,出血が起こると凝血が制御できずに問題となる。

ヘテロ接合体の女性では,突然変異していない遺伝子のコピーがあるので, 第 VIII 因子を合成することができるが,彼女の息子の半数に問題の遺伝子を遺伝することになる。このため,ヘテロ接合体の女性を 保因者 ( キャリアー ) と呼ぶ。また,彼女の娘の半数も保因者となる。
X Y
X XX XY
Xh XhX XhY

女性が A 型血友病になるのは極めてまれである。それは,母親と父親から問題の遺伝子を受け継ぐことになるが,血友病者が父親になることはほとんど無いためである。

伴性遺伝のもう一つの例として赤緑色盲が知られている。

X 染色体不活化

女性は X 染色体上の遺伝子を 2 コピー受け継ぐが,男性は 1 個だけである ( ただし 18 の例外があり,Y 染色体上に 9 個の偽常染色体遺伝子と 9 個のハウスキーピング遺伝子がある)。

X 染色体上には他に数百の遺伝子があるが,男性には遺伝子の量的な不利益があるのだろうか?

答えは "否" ( ノー ) である。

その理由は,活性がある 1 本の X 染色体だけを女性がもつためである。

間期 では,染色体は非常に繊細なために染色して光学顕微鏡で見ることはできない。しかし,バー小体 Barr body ( 発見者の名前にちなんで ) と呼ばれる濃染する構造体が雌性哺乳動物の間期の核内に観察される。

バー小体は一方の X 染色体である。 その凝集した状態は不活化されたことを示している。

したがって,雄性と全く同じで,雌性細胞ではどちらか一方の X 染色体連関遺伝子が機能していることになる。

X 染色体の不活化は胚発生の初期に起こる。

ある細胞では,どちらの X 染色体が不活性化され,バー小体になるかは確率の問題である ( ただし,カンガルーのような有袋動物を除く。これらの動物では,不活化されるのは常に父親由来の X 染色体である )。

不活化が起こると,その細胞のすべての後継細胞で同じ X 染色体が不活化される。この様な X 染色体の不活化によって,遺伝子組成が異なる細胞群が形成されるのである。

こうして生じた生物個体 ( 遺伝子組成が異なり,そのため形質発現に変異が生じた生物 ) は 遺伝的な モザイク genetic mosaic と呼ばれる。

X 染色体不活化の機構

X 染色体の不活化には XIST と呼ばれる X 染色体連関遺伝子が関与する。

雌における胚発生の早い時期に,その個体の 2 本の X 染色体に座位する XIST が発現するが, XIST RNA は速やかに分解される。こうして,一方の X 染色体のみが機能するようになる。

雌性の embryo における X 染色体の不活性化は無作為に起こる。母性の X あるいは 父性の X が不活化されるかは全く予想がつかない。ただし,胚体外膜 ( その後,羊膜胎盤 ならびに 臍帯 が形成される ) は例外である。胚体外膜 のすべての細胞で不活化されるのは,父性の X 染色体である。

X 染色体上のある遺伝子は不活化を免れる

と同じに Y 染色体上にも見つかっている 18 個の遺伝子についてはどうであろうか? 

雌は,雄と遺伝子量の平衡を保つにはこれらの遺伝子の 1 コピーを不活化する必要はないはずである。そして,そのとおりこれらの遺伝子は雌においても不活化を免れている。なぜこのようになっているのかはまだ分かっていない。

X 染色体異常

既に紹介したように,異常な数の X 染色体をもつ例が知られている。致死的な 異数性 aneuploid の例とは異なり, X 染色体の数的異常による影響は以下のようにまとめられる。
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April 1, 2010