性分化

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雄性と雌性を決めるものは何か?


ある生物では,性腺に性差が限定されているもの,またヒトのように二次性徴によって性的二型が明確になる場合などいろいろある ( 体格,筋肉量,脂肪の分布,体毛 ) 。

この差は,発生初期からの一連の変化から生じてくるもので,遺伝子発現と環境の相互作用の影響も受ける。



性は段階的に決定していく


染色体,性腺,そしてホルモン

性決定の際の XX と XY の違いは,女性または男性の表現型が発現していく遺伝学的な出発点である。

男性と女性の生殖器官の形成は,以下の要因によって影響される。

これらの相互作用の結果,ある個体の染色体上での性 ( XX または XY ) が表現型の性と異なることがある。

個体の性はいくつかの段階で決まっていく。

多くの場合これらのすべてが一致するが,一致しない場合もある。
ここではまず,正常な性分化がどのように起こるか考えてみよう。


性の決定は胚の時期に始まる

ウォルフ管とミューラー管

1. 染色体による性(遺伝的性)

性決定の最初の段階は,XX または XY 染色体構成をもつ接合子を形成する受精時に起こる。

しかし,発育中の胚は最初の 7 - 8 週は性的に中立である。発生初期には外生殖器にも差はない。

2. 性腺による性

体内には, 2 系統の未分化の性腺が存在し,それぞれが雄性または雌性の生殖道への発生能をもつ。この 2 系統の未分化器官は ウォルフ管 ( 雄 ) と ミューラー管 ( 雌 ) と呼ばれる ( 右図 ) 。

約7週になると,遺伝子の違いによる発生経路が活動し始め,未分化性腺は精巣または卵巣に発生していく。こうして,胚・胎児の性腺の性が確立する。この過程は約 4 - 6 週間続く。

胚にY 染色体が存在すると,Y 染色体上の遺伝子の作用によって未分化の性腺は精巣へと分化し始める。これらの活性化された遺伝子産物は,未分化性腺内の細胞の増殖と分化を促す。

Y染色体の短腕上にある SRY ( sex-determining region of the Y ) 遺伝子 ( MIM/OMIM 480000 ) が精巣への分化を導く遺伝子作用を開始させる。Y 染色体上の他の遺伝子と常染色体上の遺伝子もこの時期に重要な役割を果たしている。

精巣への発生により,精巣の細胞は 2 種類のホルモンを分泌する。テストステロンミューラー管抑制ホルモン Mullerian inhibiting hormone ( MIH ) である。遺伝子の発現に従い,これらのホルモンがその後の性分化を制御する。

テストステロンはウォルフ管を刺激して,精巣上体,精管,精のう腺などが形成される。発生中の精巣から分泌される MIH は雌性生殖道の発生を抑制し,ミューラー管を退行させる ( 右図 ) 。

2つの X 染色体をもち,Y 染色体が存在しない胚では,未分化の性腺は卵巣として発生する。テストステロンの分泌がないのでウォルフ管は発達せずに退行してしまい,ミューラー管抑制ホルモン の影響を受けないのでミューラー管が発達し,卵管,子宮,膣の一部を形成する。


性腺ホルモンの影響

性腺のホルモンが雄 ( 男性 ) ならびに雌 ( 女性 ) の表現型の発現を促す。

3. 表現型の性

性腺の性が確立すると,性分化の第 3 ステージ,すなわち性の表現型発現が始まる。男性では,テストステロンが代謝され,デヒドロテストステロン ( DHT ) に変換される。

このホルモンが外部生殖器の形成に直接作用する。 DHT とテストステロンの影響下で男性型に,DHT 不在下で女性型に分化する。

性の決定の主な経路をまとめた模式図はこちら


男性と女性における X 染色体の均等化


疑問

X 染色体上の遺伝子の発現に関する具体的な疑問の例

X 連鎖性遺伝子病である A 型血友病は血液凝固 VIII 因子をもたない異常である。正常な女性はこの因子の遺伝子を 2 コピーもち,正常な男性は 1 コピーしかもたないので,女性の血液には男性の血液の 2 倍多い凝固因子が存在するのだろうか。

この答えは至って簡単である。
遺伝子産物量は女性も男性も同じで,遺伝子量補償 ( 補正 ) dosage compensation と呼ばれる現象によって,X 染色体の遺伝子産物の量は男性と女性で均等化されている。


毛色,バー小体,X 染色体不活化

バー小体 雌性動物で,遺伝子量補償がどのように起こるのかを説明するのもとして,雌の X 染色体の一方の遺伝子ほとんどすべてが不活化することによって,遺伝子量補償 が働くという Lyon 仮説 が知られている。

この説は遺伝学と細胞学的証拠から考え出された。

Mary Lyon は彼女の仮説のなかで,これらの知見を以下のようにまとめた。


雌は X 連鎖遺伝子のモザイクである

三毛猫 Lyon 仮説によると,ある細胞は母親の X 染色体の遺伝子を発現し,他の細胞は父親の X 染色体の遺伝子を発現することになり,哺乳動物の雌はモザイクであることになる。

X 連鎖性毛色遺伝子ヘテロ接合体の雌マウスで,Lyon が観察した毛色パターンは,この不活化の結果,一方の X 遺伝子による毛色の斑紋と他方の X 遺伝子による毛色の斑紋が点在するために生じたものである。

モザイク現象の身近な例はぶち猫に見ることができる ( 右図 ) 。
ネコでは,X 染色体上に 2 個の毛色遺伝子,オレンジ ( 黄色 ) 毛色となる優性対立遺伝子 ( O ) と黒色となる劣性対立遺伝子 ( o ) がある。

ヘテロ接合体の雌ネコ ( O/o ) はオレンジ毛色と黒色が混じった,いわゆる〈ぶち〉を形成する。オレンジ遺伝子をもつ細胞と黒色遺伝子をもつ細胞が混在しているため,ぶちパターンを示す。

白色の被毛をもつ個体にこのぶちパターンが現れたものが三毛となる。したがって,ぶちネコや三毛ネコは常に雌であり,雄はオレンジ毛色または黒色のどちらかの被毛をもつ。

モザイク現象は女性でも起こっている。

G6PD ( MIM/OMIM 395900 ) と呼ばれる酵素の情報をもつ X 染色体上の遺伝子が 2 個の対立遺伝子をもつ。

それぞれの遺伝子が,識別できる型の酵素を産生している。ヘテロ接合体の女性から採取した細胞を培養した場合,それぞれの型の細胞の酵素活性を示す ( 下図 ) 。

ヒトでの量的補償の例
G6PD をコード化する X 連鎖遺伝子は 2 つの対立遺伝子をもつ。1 つは活性型酵素を生産し,もう一つは不活性型を生産する。
a) 2 つの活性型遺伝子をもつ人の血球。b) ヘテロ接合体の女性の血球。染色された血球は活性型遺伝子をもち,染色されていない血球は不活性型をもつ。ヘテロ接合体は 2 種類の細胞から成るモザイクである。


XIST遺伝子の発現(赤)

いつ,どのように X 染色体は不活化するのか?

X 染色体の不活化の過程は十分解明されていない。 これらの疑問に対する回答はまだ得られていないが,不活化は X 染色体不活化センター X inactivation center ( Xic ) と呼ばれる X 染色体上の特定の部位から開始されることが分かってきた。

Xic はいくつかの遺伝子を含み,その 1 つに XIST がある。X 染色体上の XIST 遺伝子が発現すると,染色体は XIST RNA で被覆され,巻き込まれるようにして不活化される ( 右図の緑色が X 染色体上の XIST RNAを示す ) 。

雌の胚において, 2 本の X 染色体のうちの 1 本だけでどのように XIST 遺伝子が発現してくるのか,まだ解明されていない。

女性の事例

X連鎖遺伝子と双子の家系図 ヒトでは,両方の X 染色体が配偶子ならびに初期胚では活性をもっている。一方の X 染色体の無作為な不活化は胚盤胞 ( 細胞数が 32 細胞 ) 期に起こる。

不活化時の胚細胞数が限られているので,すべて ( またはほとんどすべて ) 母親あるいは父親の X 染色体が不活化されてしまうこともあるのだろうか?

この状況は,X 連鎖性形質のヘテロ接合体の女性に起こりえる。事実,このような極端な例が,女性の一卵性双子で結構観察されている。すなわち,一人が X 関連性形質の劣性形質をもち,もう一人がもたない例である。

右に示した家系図では,一卵性双子の 2 人の女性は色覚異常の父親から受け継いだ赤緑色盲のヘテロ接合体である。

双子の一人の色覚は正常で,もう一人が赤緑色盲であった。この女性には 3 人の息子がおり, 2 人は正常であるが ( III-1 と III-3 ) ,一人は色覚異常 ( III-2 ) であった。

色覚異常の双子の女性から得られた皮膚細胞の分子検査により,活性をもつ X 染色体のほとんどが父親由来で,色覚異常の対立遺伝子をもっていることが判明した。

色覚が正常な双子のもう一人では,この状況の反対であり,活性をもつ X 染色体のほとんどが母親由来であった。


従性遺伝形質 sex-influenced traits と限性遺伝形質 sex-limited traits

はげ症は従性遺伝である

従性遺伝

この遺伝子はたいてい常染色体上の遺伝子で,男性と女性の両方に発現するが,表現型はメンデルの法則の期待値と大きく異なる頻度で現れる。それは,遺伝子発現の程度にホルモン環境が影響するためである。

パターンはげ症 pattern baldness ( MIM/OMIM 109200 ) が従性遺伝の例である ( 右図 ) 。

この形質は女性より男性に頻繁に発現する。この遺伝子は,男性では優性,女性では劣性として作用し,発現の程度はテストステロン量の差に関連している。

ホルモン環境と遺伝子型が相互作用して,遺伝子の表現型発現を決める例である。


限性遺伝

Y 染色体上の優性遺伝子は,他の染色体に優性の同義遺伝子がないかぎり,Y 染色体をもつ性にのみ限性的に発現する。これを限性遺伝という。

性的早熟 precocious puberty ( MIM/OMIM 176410 ) を制御する常染色体優性の形質はヘテロ接合体の男性に発現するが,女性には発現しない。

ヘテロ接合体の女性は影響を受けないが,彼女の息子の半数には受け継がれる。したがって,この形質を伴性遺伝する遺伝子と区別するのが困難である。

女性における胸部の発達,男性におけるヒゲなど,二次性徴に関連する他のほとんどの遺伝子も限性遺伝の例である。


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April 1, 2010